『遠くの青』(#3)

僕の物語

再びスマホの画面に目をやると、少し顔を赤らめては、どこか哀愁を漂わせた表情が映りこんでいた。ホームボタンを押して、再度タイトルに書かれた馴染みのない文字とサムネイルに映るちょい悪オヤジを見る。

 

そうだった、この性的に魅力的であろう手を見たことで、思考がいらぬ方向に派生した結果、無自覚の勃起を引き起こし、女子高生による蔑みの眼差しを受けたのだ。彼の手に理不尽な憤りと嫉妬を覚えたが、それをこの手に向けたところで、何も変わらない。万が一それが彼に伝わったところで彼は、「君にいらぬ妄想をさせ、無意識の勃起を引き起こしたこと、並びに、女子高生による卑下の対象とたらしめたことを深くお詫びします。」と恐らくは遠い異国の地からメッセージを送ってくれるだろうか?ではその謝罪が届いたら、僕は失いつつあった自尊心を取り戻し、再び元気な勃起を引き起こすことが出来るのだろうか?

 

どうしようもなく恋焦がれた人が自分のことを好きではないことを分かりつつも、自分の気持ちを伝えようとする虚しさに似た虚無感を感じた。あるいは貧困地域の伝統ある少数民族に対し、新しいお金の稼ぎ方を教授し、選択肢を与えたことが、その村からの人口流出とその民族の滅びを招くような、後戻りのできない悲哀を感じた。

 

そんな一通りの思考を終え、気持ちがブルーになり、やるせなさを感じているときだった。突如デジャブのような感覚に襲われた。僕はその源泉を辿ろうと試みた。

 

夏の最後の公式戦が終わり、それと同時に2年半を共にした部活動が終わりを迎えた。「本格的に大学受験に向けて勉強をスタートさせなければならないな」などと、口では言うものの、覚悟を決めきれないような、気持ちを整理することの難しい時期のとある日のこと。授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、ホームルームを終えた僕は、いつもの待ち合わせ場所である校内の時計下まで、真っ赤に染まった夕日を正面に受けては、眩し気に手をかざしながら、坂道を下っていった。サッカー部の仲間たちと一緒に帰る時にはいつもそこで待ち合わせ、後輩たちがグラウンドで練習しているのを横目に、下校の帰路に就いた。

 

しかしその日は、そのまま帰るには何となく退屈な気がしていたことに加え、いつもからかっては遊んでいた後輩の青田と塩峰の姿が見えたため、後輩たちの練習にお邪魔することにした。さらに嬉しきかな、顧問が今日は用事があり、部活には来ないそうだ。僕らはさっそく青田と塩峰を誘い、鳥かごを行った。

 

(*4,5人程度で輪を作ってボール回しをするのだが、その輪の中に鬼を2人置き、鬼がボールを取ったら、取られた人と交代するというゲーム。ただし鬼が股を抜かれた場合はその分だけボールを取らないといけないという独自ルールを追加したため、僕らの鳥かごでは、股を抜かれ続けてしまえばそれだけ、交代することが難しくなる)

 

そこで僕らは青田と塩峰を鬼に置き、それぞれに対し、53回、27回の股抜きを成功させ、いくら取っても交代することはほぼ不可能な状況に彼らを追いやった。ヘロヘロとボールを追いかける姿にゲラゲラ笑いながら、僕らはパス回しを延々と続けた。股を抜かれまくった彼らも、ゲラゲラ笑いながら、僕たちのボールを延々と追い続けた。他の人が見れば、何をそんなにゲラゲラとと嘲笑されるだろうが、そんなことはお構いなしに、僕らは鳥かごを心の底から楽しんだ。

 

続く

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